紙媒体の文字を読み込み自動で電子データ化する「AI OCR」分野で急成長しているAI inside(エーアイインサイド)株式会社が4月28日、「大口販売先ライセンスの不更新の見込に関するお知らせ」という適時開示を実施しました。
適時開示は衝撃的な内容で、販売パートナーとしてNTT西日本に許諾しているAI OCRサービスのライセンス9,284件の内、7,636件をNTT西日本から契約更新しない旨の通知を受け取ったとのことです。
適時開示をまとめると
- NTT西日本に許諾しているライセンスの8割以上が契約終了となる見込み
- 全て契約終了とするとリカーリング売上21億のうち17億が消失(21年3月期売上予想44億円の4割)
- 21年5月以降に不更新が発生して22年3月期の業績に影響
リカーリングは「Recurring=繰り返す」という意味で、継続利益を得ることを目的としたビジネスモデルのことです。AI OCRサービスの多くはソフト単体を売買して終わりではなく初期費用に加え、読み込んだデータ量で変動する月額料金が発生します。水道代や電気代のイメージですね。
販売パートナーであるNTT西日本の営業活動によりAI insideが開発したAI OCRサービスを導入した企業の8割近くが今後1年以内に解約となり、NTT西日本としては引き受けているライセンスが余剰になってしまうようです。
AI insideは画期的なAI OCR技術と安定性のあるストックビジネスで急成長してきただけに、この発表にはとても驚きました。
株価への影響は?
AI insideがPTSでマイナス18%を超える下落… pic.twitter.com/Xlj682VJxj
— サワオ@投資と育児 (@sawao_kabu) April 29, 2021
この記事を書いている4月29日の14時現在、AI insideの株価はPTSでマイナス18%となっており、30日およびGW明けの株式市場では大幅な下落が予想されます。
なお私はAI insideの株は保有していません。
AI OCR技術について
AI OCRは主にFAXや複写式伝票など紙媒体を自動で電子データ化、CSVで出力して売上計上や基幹システムに取り込むことに活用されています。
つまり手打ちを減らして工数を削減、業務を効率化させて人件費を削減していくことが導入の目的です。
特に昨今のコロナ禍で人件費を削減したい企業は多く存在し、AI OCRとRPAツールの組み合わせで業務を自動化することが注目されています。
今回はNTT西日本の営業先企業が「AI OCRを導入したが人件費削減に繋がらなかった」ことが全てです。繋がらなかった理由は営業先企業に活用する技術がなかった、そもそもAI insideのAI OCRサービスは使い物にならない、その両方が考えらます。
私も仕事でAI OCRサービス(AI insideとは別)を使っているのですが、デジタル文字の読み込みで体感的に98%くらいの精度で手書きだと70%ほどまで精度は落ちます。
デジタル文字の98%は一見すると相当高いように感じますが、2%の誤りが発生することを前提に何百枚もの紙媒体を処理するのはリスクであり、読み込み後やCSVをインポートをした後に目視での確認は必須となります。
AI OCRサービスを導入すれば紙媒体の処理を全て自動化できると考える企業にとっては「期待外れ」だったのかもしれません。
AI OCRの今後
AI OCRサービスを活用していくには「スモールスタート」が望ましいと考えます。このスモールスタート時にAI OCR→CSVダウンロード→売上計上など流れを確立させて他の帳票にも展開していくことで浸透していきます。
サービス提供側もスモールスタート時に導入企業が躓かないようにサポート体制を敷き、セミナー等でサポートしていくことが望ましいと思います。
また投資対象とする場合にも技術面だけでなくサポート体制にも目を向ける必要があると感じました。
AI OCR自体は画期的な技術ですので、今回の一件で進歩が滞ることのないようにAI insideはじめ競合他社にも踏ん張っていただきたいです。