前職の企業はコロナ禍で経営が急激に悪化しました。幹部としてコスト削減に取り組み、黒字化を達成した施策をご紹介します。
ご紹介する内容はコロナ流行前まで年間売上高30億円の中小企業における例となります。基本的なコスト削減施策であり、企業の大小関わらず有効な方法でもあります。
もし黒字化を目的に経営コンサルと契約しようと考えているようでしたら、まず今回ご紹介する内容が実行できているか確認しましょう。(おそらくコンサルからも同じようなことを言われると思います)
本格的なコロナ不況はこれから本番
帝国データバンクによるとコロナ関連の倒産は2021年3月現在で1,000件を超えました。ようやく日本国内でもワクチン接種が始まりましたが、医療従事者や高齢者が優先的に摂取されており、一般市民の2回摂取が2021年中に完了するのは物理的にほぼ不可能な状況です。
そのような状況で現在は経営を続けられていても大幅な売上減により、コスト削減が求められている企業は数多く存在することでしょう。飲食店や小売業などコロナの影響を直接受けた業種に続いて、交通、イベント、印刷、広告へと波及していき本格的なコロナ不況はこれからやってきます。ワクチンが行き渡るまで最低でもあと1年は会社という船を沈めないように耐えるしかありません。
私が以前勤めていた会社もコロナにより売上が激減。決断できない経営者に代わり幹部として即効性のあるコスト削減策を実行して黒字へと導きました。今回はその方法をご紹介します。
前提:売上は伸びない(伸ばせない)
具体的なコスト削減策に入る前に、現在のコロナ禍のような経済活動がストップしている状況で、
「売上を伸ばせば生き残れる!」
こんな考えは捨てるべきです。特にコロナ前までに売上が右肩下がりで推移していた企業がコロナ禍で売上を伸ばす術を持ち合わせているはずがなく、新たな市場や新業態へチャレンジするにも体力を削るだけに終わる可能性が高いです。
入ってくるお金を増やせないのであれば、出て行くお金を極限まで削ることがコロナ不況を乗り切るための絶対条件であり、特に経営者ならば会社という船を沈めないようにするために、断固たる決意であらゆるムリ・ムダ・ムラを落としていく舵取りが求められます。
家計簿に例えるならば、
収入30万円・支出25万円のとある家庭
(毎月5万円黒字)
↓
収入20万円に減少・支出は変わらず25万円
(5万円の赤字に転落)
このような状況で収入を5万円増やそうとするよりも、まずは支出を5万円減らして赤字を解消する方が現実的だと思いませんか?家庭から企業へ規模は変わろうと同じことです。
それではコスト削減策を紹介していきます。
【1】人件費削減
これからいくつかのコスト削減策を紹介していきますが、まず人件費を軽くしないことには何も始まりません。航空会社やアパレル企業など大手企業が1,000人規模での希望退職を募っているように、経営が苦しい中小企業においても覚悟を持って最少人数での経営運営にシフトすべきです。
「5人配属している部署は2、3人で回せないのか」
「そもそも部署自体必要なのか」
今までの組織図は一旦切り離した方がいいと思います。ただし企業側から一方的に解雇することは難しいため、まずは希望退職そして不要な人材に対しては退職勧奨で今後社内に居場所がないことを伝えていくべきです。
企業にとって必要な人材と共に生き残っていくためにも、余計な人件費はコロナ禍を好機と捉え一気に断ち切りましょう。
【2】支店・直営店の閉鎖
コロナ流行前までは、商談といえば相手先を訪問し初対面であれば名刺交換、商談室でお茶を飲みながら進めていくのが通常でした。それがコロナ禍になりほとんどの商談はWEB上で行えることが分かり、ZoomやMeetを使用した商談がだいぶ浸透してきました。
またショッピングにおいてもWEB上で買えないものを探すのが難しいくらいコロナ禍でEC市場が拡大しています。
そのような状況において、ある地域をカバーするために営業所や直営店を構えるというのは非効率な環境になっています。特に小売店の場合、自社のスタッフを置く直営店スタイルは黒字化が非常に困難になっています。
大まかな指標として小売業の場合、年間売上高をスタッフの人数で割って「一人当たりの売上高」を算出した時に一人当たり1,500万円を割り込むようであれば、その店舗は利益貢献できていない可能性が高いです。旗艦店への売上集中やECサイトへの誘導を図り、人件費同様に物流コストも最小限に抑え、利益を生み出せる体制を作り上げるべきです。
【3】賃料・販売手数料を交渉
前述の支店・直営店閉鎖について「残す価値はあるが薄利の状態」なのであれば入居している建物の管理会社、テナント店であれば運営会社に賃料交渉を申し込む手があります。
建物を管理している側の会社にとって一番避けたいのは「空き」の状態です。コロナ禍で少しでも収入源を残したいと考えている管理会社は多いので、コロナ前よりも交渉はしやすい状況にあります。
ただし何の脈略もなく交渉に臨んでは質の悪い「値切り」にみられる可能性がありますので、
「3ヶ月だけ賃料を30%引いてほしい」など、期間を絞るなりして交渉のハードルを下げていくのが交渉成立へと繋げるコツです。
またテナント店の場合、販売手数料が取られているのがほとんどだと思います。販売手数料についても交渉次第で下げる事は十分可能ですので、粘り強く交渉しましょう。
【4】不採算商品の終売・価格改定
利益貢献できていない商品や、生産ロットと販売数がマッチせず不良在庫となっているような商品は、なるべく早く終売や適性価格に改定することで利益貢献できるラインナップに立て直しましょう。
ここで重要となってくるのは利益「率」ではなく、利益「額」となります。
たとえば100商品を利益額でランキングにしたときに、上位30アイテムで全体の利益の7割程度稼いでいるような構造であれば残りの70アイテムは削り、同時に会社規模や人員も最適化して販売する意味のある30アイテムにリソースを注いでいくべきです。
終売になったら困る、薄利でもこのまま売っていくべきだ、など社内でハレーションが起きたとしてもそれに屈してはいけません。稼げる利益「額」を基準に人件費同様商品ラインナップも最適化していきましょう。
【5】広告費の削減
以前ブログでも紹介しましたが、広告予算は出稿を止めれば止めただけコスト削減ができる、削りやすい項目でもあります。ただし、売上に直結する部分でもあるため広告のクオリティーは落とさず、経費だけを削っていく方法を紹介しました。
https://sawao-memo.com/2021/03/03/ad_cost/
ネット印刷を利用したり、会社同士の付き合いで出稿しているような、お金をドブに捨てているだけの広告をやめていく。それだけで数百万円のコスト減が実現できる可能性もあります。
【6】残業代の削減
残業代の削減は最初に紹介した人件費に直結するもので、非常に効果の大きいコスト削減策の一つです。
そもそも残業というのは上長が部下に「依頼」して、部下が「了承」して残業する、これが正しい流れです。誰の依頼もなく好き勝手残業できるような体制で、かつその全てに残業代を支払っているようでは、生活残業をしている社員が多く発生している可能性があります。
残業ゼロを目指し結果的に7~8割は減らせるよう、まずは残業までの正しいルートを確立し、定時上がりを基本の社風にすることが理想的です。
私も上長として部署の残業時間を減らすために、まず自分が定時上がりを徹底しました。収入は減り辛いものがありましたが、幹部自らがそのような姿勢を示すことが重要だと考えます。また、業務効率化を進んで実行できる、会社にとって必要な人材が判別できる良い機会にもなります。
以上の内容を実行することで大きくコストを削り、光熱費や余計なカラー印刷の禁止、福利厚生の見直しなど小さな部分で削減策を仕上げていくのが良い進め方です。
最後に
コロナ禍はもともと赤字体質だった企業にとってチャンスかもしれません。
人を辞めさせる理由や不採算部門・商品を無くす理由を全てをコロナのせいにして、体質改善に努めることができるからです。
コロナが収束するまでディフェンスに徹し、乗り越えたその先で有能な人材と骨太な経営を続けていけることを願っています。